たまっている仕事をするべく早起きをしようと寝床に入ってから2時間。遠くのほうで電話の音がする。
ハッとして起き上がり電話を取ると、受話器の向こうからはお母さんの声。「●●(妻の名前)の陣痛が始まったから来てくれる?」そう、とうとう陣痛が始まったのだ。
予定日は14日だったので少し早いが、妻は子供がいつ生まれてもおかしくないぐらいのお腹をしていた。
私は慌てて着替えをし、広島から出産予定先である山口県の病院へと向かった。
あいにく前がよく見えないくらいの大雨だったが、こんなときこそ慌てるまいと、安全運転を心がけて車を走らせた。
病院に着いたのは午前4時前。電話があってから1時間半ぐらい経っていただろうか。お父さんと交代でLDRへ入り、妻の様子を伺う。
陣痛の間隔は5〜7分程度。まだ今すぐというわけではないらしい。
周りのみんなに「すぐ生まれるよ」と言われていたので、もしかしたら立会い出産に間に合わないだろうかと思っていたので、その点は安心した。
ベッドに寝ている妻の横に座り手を握りながら話かけてみると、さすがにしんどそう。長男のときにもそうだったが、事前に水やタオルを持ってくることさえ忘れていたから、何とも情けない。
持っていた自分のハンカチを取り出し、汗をふいてやる。
助産師によると、お腹の中の赤ちゃんは回転しながら降りてくるのだが、へその緒が巻き付いており、なかなかうまくいっていないらしい。
そのため、私は何度かLDRから出され、外で待っていることになった。最初はすぐに声をかけられて入っていたが、何度目かに外に出されたときには1時間も出されたので、さすがに心配になってきた。
しかしそれでも中に入れてもらえることはできず、出産後に入る部屋で「待っていてください」と促され、仕方なくテレビを見ながら待っていたが、なんとも落ち着かない。緊張と疲れからうとうとし始めたころ、看護師が呼びにこられたので、LDRへ。しかしそれでもまだ入れてもらうことはできず、目前で待機。
このまま入れてもらえないのでは?妻のそばにいてやれないのでは?と不安になったが、10分後、ようやく入れてもらうと、そこには汗だくで苦しんでいる妻の姿。
手を握り、腰をさすり、汗を拭きイキんでいる妻を励ますが、見ているほうが辛くなってくる。
ふと気がつくと、2分置きぐらいにくる陣痛のたびにイキんでいる妻と一緒に息を止めて踏ん張っている自分がいた。冷静に考えると自分まですることはないのだが、もう自分まで出産をしている気になっていたみたい。
助産師の方が声をかけながら出産に導いてくれるので、少しずつ少しずつ子供が出てきているのが分かる。
「そうそう、今の調子。うまいよ〜。」
「髪の毛が見えてきたよ」
「頭が出てきたよ」
妻は日ごろ決してみることのない苦痛の表情を浮かべながら、一生懸命にがんばっている。
「もう少しだ」
「がんばって」
私がLDRへ入って40分ぐらい経っただろうか。
ついに子供はこの世界へ生まれてきた!
「オギャー、オギャー」と泣く赤ちゃん。
「生まれましたよ。女の子です。」
その言葉を聞いた瞬間、こみ上げてきたものがあったのだろう。妻は号泣した。
「ありがとうございます!」
「よかった!よかったね」
二人で顔をつけあわせて喜びあった。
長男のときもそうだったが、本当に心の底から喜びがこみ上げてくるのだ。
助産師の方が早速妻の胸元へ赤ちゃんを連れてくると、スーッと赤ちゃんは泣くのをやめてしまった。母親ってわかるのかだろうか。
後処置や最初のおっぱいをやったり、抱っこしたりするということで、私はLDRを出て、父母の元やお付き合いのある方のところへ連絡を入れると、どの方にも本当に喜んでいただけた。
私たちは幸せものだ。
その後、母と長男がやってきた。長男はいつものように元気がない。母親を取られると思っているのだろうか。
処置も済み、妻と赤ちゃんが待っている部屋へ入ると、赤ちゃんはスヤスヤ眠っていた。長男が生まれたときには私にそっくりと周りから言われたが、今回はそういうこともなく(もちろん似てはいる)何となく妻にも似ている気がする。
5分程度家族3人の時間を過ごした後に赤ちゃんはベビーベッドへ。妻は入院時に使う部屋へ戻ってきた。
ママが帰って来たというのに、子供はなんだか不服そうな顔つき。でもママにべったりとくっついている。
そのうち赤ちゃんが見れるようになったので、長男を連れてベビーベッドの前へ。
不思議そうな顔で見つめる長男。最初は興味なさそうに離れていったが、何分かごとに「赤ちゃんのところへ行く」と言って一人で何度も行っていた。やはり気になるらしい。
そのうち「早く赤ちゃんと遊べるようになればいいのに」と言い出したのでびっくり。
もう愛情が芽生えてきたのかな。
午前中は長男と一緒にベッドに寝ている妻と話をしながら過ごした。
午後からは仕事があるので、妻と赤ちゃんに別れを告げていったん帰宅した。
また明日会えるだろうか。いや会いたい。
★LDR
L(陣痛)、D(分娩)、R(回復)を一つの部屋 で過ごすこと。
陣痛を促すベットが分娩台に変わり、部屋を移動せずにスムーズにお産ができる。